『五輪峠』
「下書稿(一)手入れ/春と修羅第二集 一九二四・三・二四
「何べん降った雪なんだが
いつ誰が踏み固めたでもなし
みちのかたちなってゐる」
雪みちがぼそぼそとして
雑木林の肩をめぐれば
向こうふは松と岩との高み
その左には
がらんと暗いみぞれのそらがひらいてゐる
そここそ峠の下り口だ
「あれがほんとの峠だな
いったいさっきのあの楢の木の柵にある
あすこを峠とおもったために
みちがこんなに地図に合わなくなったんだね」
藪が陰気にこもってゐる
そこにあるのはまさしく古い五輪の塔だ
苔に蒸された花崗岩(みかげ)の古い五輪の塔だ
続きを見る>>「五輪峠」詩群②